楽な姿勢でお読みください

忘れっぽいので、未来の自分への申し送り事項。主に読書感想文を書きます。

誰がアパレルを殺すのか 杉原淳一/染原睦美

 

誰がアパレルを殺すのか

誰がアパレルを殺すのか

 

 

 好奇心をくすぐられる本!

アパレル業界が斜陽化している中、一方IT技術を用いて独自のビジネスモデルを築きどんどん成長している企業がある。また大量生産から脱している企業も。どうやったら生き残っていけるかを書いた本。アパレル業界のみならず、日本の企業活動全体に言えることなんじゃないかと思った。

・ミナペルホネンの皆川さん「来年にはゴミになる」服を作らない。過去のコレクションもアーカイブとして販売する。

ものすごく頷いた一節。

私たちには毎日のようにGUからLINEで「今週の新商品情報」が飛んでくる。インスタグラムで洋服のハッシュタグ検索をする。ハッシュタグ検索した洋服を買う。「ワンショット消費」なんて言葉も生まれ、一度着た洋服はインスタにあげたらもう二度と着ずにメルカリに売るという。捨てずに売るというのは賢いと思うが、どんどん新しいものを!昨年の洋服なんてありえない!というサイクルはある種の麻薬のようなものだなと思う。この裏にはそれでお給料を得て生活をしている人もいることも忘れてはいけないのだが。(それを考えると、計数管理を徹底しながら原価率の高い良質な商品を適切な規模で生産し、それを売る販売員が意欲的に仕事に取り組めるよう待遇向上に努めるというユナイテッドトウキョウの考え方は良いな)

「来年に洋服の価値をゼロにしない」という皆川さんの考え方はとても健全で、むしろこっちの方が新しいのでは。

 洋服を買うときに何を重視するか、さらには買い物で何を重視するかについて改めて考えようと思った一冊。私たちの買い物が世の中を作っている。

【この本のポストイット 

・川上(糸や生地メーカー、縫製工場)から川中(アパレル企業や商社、OEMメーカー)、そして川下(百貨店やショッピングセンター=SCなどの小売店)へと洋服が移動して行く中で、必ず不良在庫が生まれる

・業界の実態を、経済産業省が2016年に公表した「アパレル・サプライチューン研究会報告書」はデータで裏付ける。報告書によると、国内アパレルの市場規模は1991年に15.3億円あったが、2013年には約10.5億円に縮小した。

・アパレルの決算書にある「モノ作りの再強化」「海外販路への進出」「食を含めたライフスタイル企業への転換」「コスト管理の徹底」「若手社員の大胆な起用」ー各社の中期計画や成長戦略に盛り込まれた要素を抽出してみると、どれも大きな差はない。

・婦人服売り場の面積を縮小するなら、「何で代替するのか」という仮説をいくつも持たなければだめ。

・百貨店の強みは編集力

・日本のアパレル企業は高度経済成長の始まりとともに流行の既製服を販売したことで急成長。時期によって流行があり、価値が不安定とみられていた「洋服」をビジネスにしてみたら、利益が出た

・1990年代にアメリカから「クイックレスポンス」という概念が入ってきたとき、日本ではその真の意味と目的を理解せず、「売れ筋商品が出たら、すぐに似たような商品を作る仕組み」として広がってしまった。アメリカが国を挙げて取り組んだクイックレスポンスとは、サプライチューン全体を短く、在庫を少なく、スピーディに再構築して消費者のニーズに応える仕組み。

・アパレル業界は50パーセントぐらい無駄な商品を作っている

・エバーレーンというアメリカの「オンラインSPA」店舗や中間業者、大規模な宣伝広告といった「あって当然」だったことを無くしている。出店を抑え、広告宣伝をやめて浮いた資金は、商品の素材やデザイン、顧客サポートと行った、アパレル企業が最も大事にすべき部分に投下。質の高い商品を、適正な価格で販売する。

・エバーレーンは生産過程を全て開示。顧客向けのメールマガジンに「カシミヤは非常に高級な素材として知られています。一方、カシミヤは価格流動性の非常に高い素材であります。素材の価格が跳ね上がれば、商品価格が上がるのは当然ですが、素材の価格が下がれば商品価格を下げるのも当然。素材の価格変動にしっかり対応。これこそが徹底した透明性」と書いている。

・アパレルの二次流通市場が、近い将来自動車と同じようになるのでは。「買ったら売るということが当たり前になる。自動車を購入する時には、新車も中古車も同じように検討する。そして新車を買うと決めたら、それが何年後にどのぐらいの価格で売れるかを調べる。アパレルも同じようになるはずだ」

ファストファッションの場合、商品の入れ替えサイクルが早く、一度売り切れたアイテムが、再び店舗に並ぶケースはほとんどない。そのため、「中古でもいいから、あの売り切れたアイテムが欲しい」というニーズがある

・洋服レンタルのエアークローゼットでは、顧客データをアパレルに提供することが可能。多くのブランドの売り場では、「試着をしたけれど、この色味が好きでない」など顧客の嗜好に関する情報が極めてアナログな形で生まれ、そして消えている。取り扱うアイテムに対する顧客の反応も、その大半が商品企画担当者に届かない。エアークローゼットでは会員が増えるほど、こうしたデータが蓄積されて行く。

・インターネット上で縫製職人と、縫製をして欲しい一般の人たちをマッチングするnutte。一般的に縫製工場は、100着程度のまとまった注文出なければ受注しない。nutteは、工場が引き受けない少量生産のニーズに応えることでビジネスを成長させた。

・ユナイテッドトウキョウというアパレルメーカー。原価率が50%。一般的なアパレルの場合、商品の原価率は20%程度という場合が多いとされる。高度な技術をもつ国内工場と直接取引きして商品を作っている。国内で生産する場合、発注を2〜3ヶ月前まで引っ張ることができるので、流行に柔軟に対応しやすくなる。定価で売り切ることを前提で商品を作っているので余分な在庫を減らす。

・ユナイテッドトウキョウのビジネスモデルは、計数管理を徹底しながら原価率の高い良質な商品を適切な規模で生産し、それを売る販売員が意欲的に仕事に取り組めるよう待遇向上に努めるというもの。

アースミュージック&エコロジーなどを運営するストライプインターナショナル。新規事業で「負けのシナリオ」を決めておく。徹底的な数字管理。投資額と投資期間を事業の立ち上げ前にはっきり決めておく。

・ミナペルホネンの皆川さん「来年にはゴミになる」服を作らない。過去のコレクションもアーカイブとして販売する。

・皆川さん「良いデザインは受け継がれる」という考え方。「デザインは、生理的に受け入れられるか否かという側面が大きい。それは短期的に好きになったり嫌いになったりするものではない。そういう意味では、洋服だって、時代や環境の変化によってバージョンアップするくらいのサイクルで回ればいいんじゃないか」

・皆川さん「今までのファッションは、半年ごとに商品の価値をゼロにしてしまい、振り返りがない。セールを通して過去の商品の価値を低く見るので、継続的な検証が途切れてしまう。これは継続して商品を作る方にとって良くない」

・皆川さん「ファッションブランドの多様性。短期で大量に、ではなく長期に大量に作る。10年ごも100年後も作り続けていること」

・環境破壊が進む中、新品を作るだけのビジネスモデルは限界を迎え、必然的に修理やリユース商品が注目を浴びるようになる。今でも新品でなくてもいいという考え方は少しずつ広がっている。今後さらにリユース市場が増えると考えれば、新品と中古品の売り上げの構成比が入れ替わるだけで、アパレル企業として成り立たなくなるとは思わない。

・長期間使ってもらえるモデルを模索すれば、不毛な短期大量生産というサイクルから脱することができるし、修理、リサイクルを新たな成長の柱に据えれば、新品を作らずともビジネスは成り立つ。