言葉のマッサージ「偽姉妹」山崎ナオコーラ
山崎ナオコーラさんの新刊。
姉妹のあり方に疑問を投げかける小説です。
あらすじ
長女の衿子、次女の正子、三女の園子。3人は、一軒家で一緒に暮らしています。
衿子は公務員。正子はシングルマザーでアクセサリーの販売をしている。園子は看護師。
正子はイケメンの旦那と結婚。ふと思いついて買った宝くじがまさかの3億円。
その宝くじの賞金で一軒家を建てる。正子は妊娠するものの、妊娠中に夫が浮気してしまいます。。
それがきっかけで二人は離婚。正子はシングルマザーとして息子を育てはじめ、そこに長女、三女も転がりこんでくる。
正子は、3姉妹で一緒に住むことに窮屈さを感じてきています。
結婚相手を自分で決めて、離婚も自分の判断で行えて、再婚や再々婚もできる自由をもてる時代に生きているのに、姉妹を自分で決められないのはおかしい。
そう考えた正子は、姉妹に対して、「姉妹を解散しよう」と提案します。
正子には年齢も違う、中のいい二人の友達(百代、あぐり)がいます。
百代は、正子の前の会社の先輩。あぐりは、正子が昔通っていた習い事で出会いました。姉妹を解散して、正子は百代とあぐりと暮らし始めます。
これまでの正子は、家族と楽しく経済をまわすことができていなかった。でも、正子は変わり始めた。次の家族とは、経済を楽しみたい。百代やあぐりは、人間的に衿子や園子より優れているわけではない。ただ、百代と正子とあぐりの組み合わせの場合、金のやりとりに緊張が走らない。それが、百代とあぐりを姉妹に選んだ理由の全てのような気がする。
正子と百代とあぐりの3人は、住んでいる一軒家を改装して「姉妹喫茶店」というカフェを始めます。
ラスト30ページは、「姉妹喫茶店」の40年後です。
思ったこと
これまでの著書で、既存の枠組みに疑問を投げかけきたナオコーラさん。
「可愛い世の中」では金銭感覚への疑問を、「ネンレイズム/開かれた食器棚 」では年齢への疑問を投げかけてきました。
本書では、登場人物の会話を通し、「姉妹」のあり方を問いてきます。「経済」、「マウンティング」などにも触れられている部分もあります。
自分の凝り固まった思考に対して、柔らかい言葉でマッサージを受けているような感覚になります。
「姉妹喫茶店」の準備をするシーンでは「成功」に対して問いを投げかけます。
<P248>「とりあえずの目標は、『3年間は続けること』にしよう。3年続けられたら、一応、成功とみられるっぽいからさ」
あぐりが片方の手を由紀夫とつなぎ、もう片方の手は腰に当てて宣言した。
「成功と見られるって、誰から?」
正子は看板を手に当てたまま尋ねる。
「え?それは、えーと、世間から……」
あぐりは言いよどんだ。
「まぁ、そうね。成功と見られなくっても構わないかもねぇ」
百代は頰に手を当ててぼんやりと言った。
「成功したい」のか、それとも「成功と見られたい」のか。
自分がやりたいと思っていることが、自分起点のエネルギーからなるのか、それとも他者起点なのか。
そこをしっかり切り分けをしないと、いつの間にか「他者に成功と見られること」に自分のエネルギーを随分使ってしまうことになりそう、とドキッとしました。
この本のラストは、40年後の「姉妹喫茶店」でのシーンで締めくくります。
40年後は、「姉妹」のあり方を取り巻く環境が随分変わってきているようです。
本の向こう側から清々しい風が吹いているかのような読後感でした。
今は「ぶす」についてのエッセイを書いていますね。こちらも書籍になったらじっくり読みたい。