三浦しをん最高傑作。自分を支える記憶を信じること「ののはな通信」
三浦しをん「ののはな通信」を読みました。
ミッション系のお嬢様学校で出会った、野々原茜(のの)と牧田はな。
庶民的な家庭で育ち、頭脳明晰、クールで毒舌なののと、
外交官の家に生まれ、天真爛漫で甘え上手のはな。
二人はなぜか気が合い、かけがえのない親友同士となる。
しかし、ののには秘密があった。いつしかはなに抱いた、友情以上の気持ち。
それを強烈に自覚し、ののは玉砕覚悟ではなに告白する。
不器用にはじまった、密やかな恋。
けれどある裏切りによって、少女たちの楽園は、音を立てて崩れはじめ……。
全編を書簡形式で紡いでおり、
二人の気持ちが、雑味なくストレートに入ってきます。
ののとはなの二人は、高校時代、強烈な恋に落ちます。
<P254>恋の記憶は残った。あの高揚と歓喜を一度も味わわずに生を終えるひともいるのだと思えば(運命の空いてなんているはずないと嗤うひとは、真実の恋をまだ一度も味わっていないことを自白しているも同然です)、やはり私は幸運だったと言えるでしょう。たとえひとときでも愛し愛され、燦然と輝く思い出を永遠に手にいれることができたのだから。
<P398>あなたに出会ったおかげで、私は人間として生きる喜びと苦しみの全てを知りました。感謝します。神さまにではなく、あなたに。
<P447>あなたは私は「ひと」にし、「ひと」として生かしてくれました。あなたは長い年月をかけて、私に愛を、つまり考え実践しつづけることを、教えてくれたのです。
誰かと出会い、その人の存在を誇りとして生きること。
その相手は異性だろうが、同性だろうが関係ない。
美しい記憶を信じて生きることの喜びと、苦しみが描かれています。
はなは、外交官の夫と結婚して夫の赴任先の外国へついていきますが、
そこである決心をします。
その決心も、ののとの記憶が契機となり、
自分の「誇り」を元に行動に移しています。
体面や、地位や名誉を守りたいがための自尊心ではなく、自分の魂の誇りのために。
<P355>あなたとのあいだにあったこと、つまり、私のなかにあるうつくしい記憶を、私は信じます。それはいつまでも、私が世界を見る際の指針となり、私が採るべき道を示してくれる。私がそう思っていることを、どうかいつまでも忘れないでね。
記憶はまだ輝きを帯びている。私はその光がさす方向へ進むつもりです。
自分を支える存在や記憶。それがもう自分のそばやこの世に存在しなくても、
記憶は消えることなく、自分の中で永遠に生き続ける。
ののとはなは、お互い強烈な存在でした。
ここまで大きな存在に出会えるのはとても幸せですが、
きっと、誰もが何かしらの自分を支える記憶を持っているのではないか?
迷った時や辛い時はその記憶をそっと取り出してみようと思わせてくれました。
この一冊、三浦しをんさんの集大成と思いました。映画化もきっとするんだろうな・・・!楽しみ。