楽な姿勢でお読みください

忘れっぽいので、未来の自分への申し送り事項。主に読書感想文を書きます。

ゆっくりいこう。小さく話そう。「ラブという薬」星野概念・いとうせいこう

 

ラブという薬

ラブという薬

 

 精神科医・ミュージシャンの星野概念さんと作家・クリエイターのいとうせいこうさんによる対談集「ラブという薬」です。

最近ぼんやりと考えていた、

  • 「強いもの」「声が大きい人」に引っ張られてしまうってどういうことか
  • SNSに発信することってどういう役割があるんだろうか

について書かれており興味深く読み進めました。

 

 いとうさんは星野さんのところにカウンセリングへ通っており、そのカウンセリングの内容を本にした一冊です。怪我をしたら外科へ行くように、心の怪我をしたら、精神科へ行ったら良い。と提唱します。

 精神科へ行くのはハードルが高くとも、「ちょっと今辛いんだよね」と誰かに打ち明けること。じっくりと、相手に身を傾けることが大事なのではないかと二人は語ります。

 ただ、長く話しすぎると、自分を攻めすぎじゃうとか、とめどなく話し続けちゃうとか。そういう時は、悩みを箇条書きにするといいそう。

<P125>星野:頭の中を水にたとえるとしたら、頭が混乱している時って、水の中に悩みがいっぱい浮いていて、このことを考えたいのに、流れていっちゃう、という状態です。基本的に、水が濁っていない時にしか整理できないんですよね。その点、箇条書きにすることって、水に浮いているものを拾い上げて別のところに置いておく感じなんですよ。自分で自分を俯瞰するというか。

 この「頭が混乱している状態」の説明が分かりやすく、まさに「水に浮いているものを拾い上げられた」感じ。

そのほか、精神科医が使っている、自分の考えのクセを捉える方法もすごく参考になりました。

 

冒頭に書いた、「強いもの」「声が大きい人」に引っ張られてしまうことについては、以下のように書かれています。

<P215>星野:自分の意見を強く持つとか、揺るがないようにするとか、そういう姿勢が求められすぎていますよね。自分の意見を持つことは、もちろん大事なことなんですけど、「○か×か」「右か左か」みたいな感じで、所属する派閥をすぐ決めようとする必要は無いと思います。そんなのすぐ決めなくたっていい。というか、そもそも意見がなくたっていいはずなんですよ。

いとう:やりとりの速さが重要視されるようになると、みんなの話題になるべく早く追いついた方がいい、という感覚に陥っていきがちだけど、それってどうなんだろう……。速すぎて自力じゃ追いつかないなってなったら、ものすごく注目されている人の意見をリツイートして、「俺も同じことを考えていた、俺が考えたも同然だ」みたいになりそう。それってリツイートを繰り返すことで、無意識的な事故の分裂や過大評価がおこっている状態だよね。

 そうそうこれこれ!と思いながら読みました。

今はなんでも速さや効率が重視されて、「で、あなたはどうなの?」と問われている感じ。答えがでるものについてはいいのですが、答えが出ないものについて、インスタントに結論を出しちゃうのってすごく怖いな、と。結論が出ないことも大事にしたい。

 

 また、SNSに発信しないことがもたらすことの豊かさ。「どこにもアップされない友達との一対一のなんの結論も無い会話」。人って無駄なことができる時、間違えなく安心している、「別に何も得られなくってもいいや、楽だし」ってリラックスしていると星野さんは話します。

 

 コスパが求められる昨今ですが、無駄だけど好きなことをやる時、人はゆるみ、ちょっといい明日ができてるのかなと思いました。ブログに書いた津村記久子さんの「ディス・イズ・ザ・デイ」を思い出しました。この小説は、サッカー2部リーグのファンの悲喜こもごもを描いています。得なのか損なのかわからないけど、好きなことに没頭できる幸せ。この小説と近い読後感を感じました。