言葉をもらう「さざなみのよる」木皿泉
小国ナスミが43歳で亡くなるところから、この物語は始まります。最初に、ナスミが亡くなってしまって、その後どうなるの?死を悼む、悲しい物語になるの?と不安になったけど、そういう話ではなかった。これは、残された人たちの祝福の物語。
全14話でこの物語は構成されていて、それぞれのお話の主人公が異なります。ナスミの夫、姉、妹という親族、さらに、幼少期のナスミを誘拐しようとした男性、中学生の時にナスミと家出を試みた男性と、その妻。
それぞれの主人公とナスミのエピソードを描く形で、物語は進んでいきます。ナスミが亡くなった後も、周りの人たちの心の中にはナスミは生きています。ナスミを思う気持ち、残された人を思う気持ちに、ぐいぐいと物語の中に連れていかれます。
ナスミってものすごく感情が豊かで、正直で、不器用で、人として魅力的な人。こういう人が周りにいたら幸せだろうなという人です。
8話に出てきた、ナスミが元同僚に対して言ったセリフがよかった。
堕胎させられた上司の口利きで転職した会社に、今も世話になっている情けなさを、ナスミに吐露する。悔やむ元同僚に対し、ナスミは言う。
「お金に変えられないような、そんな仕事をするんだよ。みんなが喜ぶような、読んだ人が明日も頑張ろうって思うようなさ、そういう本を作りなよ」
ナスミは言葉をくれるひとだ。
この物語のあちこちに、彼女の言葉がちりばめられている。
彼女から言葉をもらった人は、時々それを取り出しながら、支えにして生きている。
いなくなった後も、誰かの中で彼女は生き続けていく。
私もナスミから言葉をもらった気がした。