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忘れっぽいので、未来の自分への申し送り事項。主に読書感想文を書きます。

妄想のプロは、夢まで妄想が豊かだった「ビロウな話で恐縮です日記」三浦しをん

 

ビロウな話で恐縮です日記 (新潮文庫)

ビロウな話で恐縮です日記 (新潮文庫)

 

 

三浦しをん氏のエッセイです。

 ひとことで言うと、とにかく「開けっぴろげ」な内容です。しをんさんの心の中。仕事場。仕事場の机の周り。本棚の中身。DVDラックの中身。部屋の扉を開きっぱなしにして、「どうぞどうぞ見てください!」と、にこにこしてしをんさんが言っているような。

 解説をジェーン・スーさんがこう書かれています。

三浦しをん氏は用を足すときトイレのドアを開けっ放しにしているだろうな。そんな想像が膨らみます。私がそうだからわかるのです。

 そうそうまさに、部屋の扉のみならず、トイレのドアまで開けてしまっている印象です。

 

三浦しをんさんの私生活は、とにかく忙しいです。ジェーン・スーさんはこれを「暇そう」とおっしゃっています。

 コミケに行ったり、欲望百貨店(伊勢丹)で試着をしたり、漫画や小説を読んでニヤニヤしたり、すすり泣いたり。趣味活動=オタク活動に忙しい。

 ですが、この「オタク活動」への妥協の無さに並々ならぬプロ意識を感じます。ただ漫画を読むだけではなく、「中勘助くらもちふさこの記憶力の発露の仕方の微妙なちがい」について考えています。これらの分析が、数々の小説に生かされているんだなと思われます。

 そして特筆すべきは、妄想の豊かさ。現実世界はもちろん、夢まで妄想が豊かです。このエッセイにはいくつかの夢日記が書かれています。その「夢」の内容が、どうしてここまで記憶力があるんだろう・・・というほど、細かい質感が鮮やかに描かれています。

その一部を紹介します。

 夢の中で、しをん氏は「海賊」の設定です。海域に沈んでいる海についての描写です。

 海底の砂に足がついた。目の前には見事に竜骨部分を残した船の残骸がある。飴色に鈍く輝く巨大な竜骨だ。竜骨からは薄い横板が羽のように何枚も突き出て、船腹のアーチを形作っている。アーチ部分の板には、よく見ると潮の侵食によってできた小さな穴がたくさん空いていて、レース編みのようになっている。

 レースは光を通し、海底の砂に複雑で美しい模様の影を落とした。

「見ろよ、きれいだなあ」と私は言い、私たちはしばし無言で足元を眺めていた。こんなに穴があっては、もう使い物にならないとわかっていたが、それでも自分たちの船に引き上げられればいいのにと、お互いに考えている。

 ・・・ここだけ、いきなり小説の世界に飛んで行きました。ジェーンスーさんの解説にあるように、「ここだけ別料金」レベル。夢も、妄想の一部だと思うんですが、現実世界で妄想力豊かな人は、夢までもそうなんだ、と驚きました。

 

 しをんさんは、小説家・エッセイストであるとともに、「オタクのプロ」であり、「妄想のプロ」。私はこのエッセイと並行して、小説「ののはな通信」も読んでいたのですが、私生活でのオタク活動や妄想が小説に生きているんだなと思います。ひょっとしたら、私生活と妄想の世界がほぼ一緒なのかもしれません。